164-参-国際問題に関する調査会-2号 2006年02月15日 ○末松信介君 自民党の末松信介です。 今日は、両先生のお話をお伺いできまして、ありがとうございます。 藤原先生に先にお尋ね申し上げたいんですけれども、先生、六か国協議とか日朝協議のときに、よく「NEWS23」に出ておられるんで、非常にはきはきと分かりやすいコメントをいただいて、感服をしておりますんですけれども。 今日お聞きしたいのは、北朝鮮外交につきましてなんですね。この中で、広野先生が参議院では委員長を、北朝鮮拉致の委員長をされておられるんですけれども、なかなか開催されないと。委員長がお骨折りいただいていろいろな機会を見付けては開催されるんですけれども、やっぱりテンポよく、順序よくはなかなかやってこないと。やはりそれほど難しい状況に常にあるということなんですよね。 先ほど先生がキューバ危機の話なさいましたですね。私も先生も大体その当時小学校二年生かその辺りだったというふうに記憶しておりますんですよ。 この前DVDで、マクナマラ国防長官、当時の、アメリカの、あの方のザ・フォッグ・オブ・ウオーですか、というビデオをちょっと拝見をしたんですけれども、やはりあの年、もう八十回られて、やはり自分の当時の思いということはきちっと語っておきたいということで、興味深くちょっと拝見をしたわけなんですけれども。 あのとき、実際マクナマラ国防長官、当時国防長官は、核の危機を本当に迎えていたと、もう直前まで行っていたと。そのとき、キューバにミサイル基地を築こうということになっていたときに、フルシチョフから二通の手紙が来たとあるんですよね。一通目は、軍事的な行動を起こす用意がなければソビエトは撤退する用意があるという手紙だったと。翌日来たのには、もし具体的な行動を起こしたんだったら、これは大規模な反撃に出る用意があると。 アメリカはもうほとほと困ってしまって、どっちに回答しようかと悩んでしまったと。そのときに、ルメイ将軍はやってしまえと、攻撃せよと。しかし、トンプソンさんという当時の駐モスクワ大使は、家族的付き合いがフルシチョフとあったので、結局その一通目の友好的な手紙にのみ答えをせよということで判断をしたそうです。 しかし、ケネディは当時、これでは解決にならぬと言ったんですけれども、果たしてそれは正しかったということが立証されたわけなんですね。後で何十年たってからマクナマラ国防長官がカストロと会ったときに、あの当時、五、六個しか核弾頭はないと思っていたら、百数十発持っていたということであっと驚いたと。これほどやはり外交というのは誤解をしているということが起きやすいということを言われましたですね。それと、相手の立場に立つということ、相手の身になって一遍考えてみるということが大切であるということ、そういうことを言われたわけなんですよね。 私、この北朝鮮の外交を考えた場合、先生は、今回、キューバとアメリカは近いですよね、北朝鮮と日本も近いという、そういう面では非常に、近いという点が共通点があると。 ただし、あのときはもう、ソビエトという一国がもう完全にそこを支配に置いて命令を下していたと。今の日本は、そういう点においては、どうやらソビエトと中国が非常に近いところにあると、韓国が太陽政策によって非常に近いところで、非常に今黙っておられるというんでしょうか、そういうような状況にありまして、あの危機とはいささか異なるんですけれども。 今、日本の置かれている危機というのは日本国民は正しく把握をしているのかどうかということをお聞きしたいのと、北朝鮮外交で何か日本は大きな勘違いをしていないかということを、そのことを私、思うんです。 確かに、経済的制裁というのは世論受けだと今先生はおっしゃいました。確かに今貿易額は、これ中国と韓国で六割占めていますので、日本だけで経済制裁したって意味がないことは分かっています。マネーロンダリングはさすがにこたえていると。やはり、金正日周辺に食べさせてやらにゃいかぬ、いい思いをさせてやらないと向こうの政権はもたないということなんですけれどもね。 こういうところを考えていった場合に、先生として、何か北朝鮮外交、この拉致問題もひっくるめて、日本として今戦略、戦術で欠けている面というのが何かあるんですけれども、言葉には私も出せないんですよ。あるとすればどういうところにあるかということをお話ししていただきたいと。 できれば、私は、新聞社、記者はうそをついてもいいと思うんですけれども、政治家とか学者とか宗教家というのは予言的な能力がないと私はなかなか務まりにくいと思っていますので、先生が総理大臣であるならばどういう着地点を見付けていくべきなのかということを、また見付けられるのかということを、この点をお聞きしたいと思います。 それと、もう簡単に言います。 東アジア共同体ですけれども、確かにこの二十年間の間に東アジア圏内の貿易額というのは七・八倍になったと。EUは四・一倍、NAFTAは四・四倍なんですけれどもね。非常に大きな経済圏になってしまったということです。ただ、この二十億の中で中国は十三億を占めていますので、そういう点では、この東アジア共同体というのは、ある面では中国のための共同体になりかねないと。なぜかといったら、あそこは唯一、一党独裁で、社会主義市場経済という、もう非常に、ある面では身勝手な思想を打ち立てられましてここまで来ていますので、ですからアメリカだって全然面白くないわけです、アーミテージさんの話聞いていましても。 そういう点で、この東アジア共同体というのは、日本にとって経済共同体、安全保障共同体、いろんな意味合いがありますけれども、これはどういうものをもたらすかということについては不透明なんで、私は、あえて言えばAPECだけでもいいんじゃないかということを、そのようにも考えられるんですけれども、先生のお話を、両参考人からお願いします。 以上です。 ○会長(西田吉宏君) 発言者にお聞きしますが、質問は藤原参考人にですか。 ○末松信介君 第一問目は藤原参考人に、第二問目は簡潔に両参考人に。 ○会長(西田吉宏君) それでは、藤原参考人、先にどうぞひとつお願いします。 ○参考人(藤原帰一君) 北朝鮮問題でどこが抜け落ちているのかという御質問でございますが、学者はうそをつくのはこれは職業上問題、もちろん問題で、そして職業上認められていることは、分からないことは分からないと言うという、これを無責任と言わずに学者らしいと言われるので非常に得な仕事でございます。 で、分からないことがたくさんある中での北朝鮮問題です。北朝鮮について一番分からないのは、政策決定者が何を考えているのかについて実に情報が乏しい。情報が乏しいだけじゃなくて、偽装するような情報が当然ながら流されるわけなので、乏しい情報に基づいて判断を下さざるを得ないというこの状態は多分変わらないわけですね。 その中で、北朝鮮が核についてどのような政策を考えているのかで、出てくる議論、我々の取るべき対応が全く違います。 一つは、核兵器をすぐ使うつもりがあるという考え方ですね。これは核の実戦使用を前提として核兵器を開発したという考え方で、いつでも核を使った瀬戸際政策を始めるだろう、こうしないと核兵器使うぞという脅しを北が始めるだろうという議論です。この解釈を取る人は比較的少ないと言って構わないでしょう。これは日本だけじゃなくて、アメリカでもイギリスでも少ないということだと思います。 そのあとの二つなんですね。 一つは、北朝鮮が国防を確保する手段として、抑止力として核兵器を開発しているという議論です。北朝鮮は元々兵器の近代化の水準からすれば韓国とは全く比較にならない。そのような状態で核に頼って国防を達成しようという方向に動いたのだということですね。もしそうだとすると、核兵器の廃棄が非常に難しくなります。国を守るための手段として核を開発しているんだから、これはなかなか廃棄したくない。交渉に応じるとすれば、時間稼ぎだということになるかもしれません。 そして、三つ目の解釈が、これは北朝鮮は言わば交渉材料として核を開発しているんだ、やめてもいい、どうせ少し持ったところで役に立たないことをよく知っているという判断ですね。だから、北朝鮮との交渉で北朝鮮の核廃棄の可能性が十分にあるんだという考え方です。 私は、残念ながらと言うべきかもしれませんが、最後の解釈取りません。北朝鮮は核の保有が目的で核を開発したんだというふうに考えています。としますと、北朝鮮が核を廃棄する展望について楽観的に考えることは難しいということです。 それから、二つ目のポイントは、北朝鮮の指導部がどこまでまとまっているのか、迅速に重大な決定を行う状況があるのかという点ですが、これも諸説あるところですけれども、私は、十分にまとまってもいないし、また迅速な決定を行う体制になっているとも考えません。 これは金正日の独裁だからできるんじゃないかとお考えになるかもしれませんが、共産圏の独自な事情ですけれども、独裁であるということは迅速な決定ができるということとまるでつながらないわけですね。フルシチョフの末期あるいはブレジネフの末期をごらんになればお分かりだと思いますけれども、重大な案件がどんどん積み残しにされていくという状態は独裁政権においても十分存在することであります。 北朝鮮は、現在、外交的な圧力に対しても、またオプション、友好的なオプションに対しても反応が非常に鈍く、また消極的になっているので、これは政治局における十分な意思決定の効率的な状況はないんじゃないかというふうに考えています。 ここから何が出てくるかということなんですが、そうなってくると、北朝鮮危機の膠着という大変望ましくない状態を考えざるを得ないのかなということが第一です。これは、そうですね、世論はそう答える人はいなくても、今覚悟し掛けているところではないんでしょうか、何分にも動いていませんから。 じゃ、どこから打開するのかというのが二つ目の点です。 朝鮮問題を打開するためのかぎは中国です。北朝鮮に対し実効的な制裁を加える力を持っているのは何よりも中国だから、これが理由の第一。 それから二つ目には、北朝鮮の核保有を実は非常に恐れている国、北朝鮮の核保有が既成事実になることを恐れている国が中国だからです。これはちょっと異常に響くかもしれません。というのも、同じ共産圏に属していますから。しかしながら、私は、中国は北朝鮮に本当に防衛の保障を与えたことはないと判断しているんですけれども、情報出てきたらまた変わるかもしれませんが、そんなことを露骨に言うことはないわけですが、しかし中国に寄り掛からなければ北朝鮮の国防ができないということは昔からずっとはっきりしていたわけです。これが中国が北朝鮮に対して持っている最大の言わば影響力の源泉だったわけです。北朝鮮の核保有が既成事実になるということは、それまで以上に北朝鮮が中国に対して自主性を持つということになります。 三路向心と申しますが、中国の国防で重要な地域とされているのは朝鮮半島、それから台湾、それにベトナムです。この三つが言わば弱いところであって、ここから西側の軍事行動は起こるだろうと毛沢東は考えましたし、朱徳は考えましたし、いまだに基本的にはこの戦略は変わってない。北朝鮮が自立性が高まるということは、中国にとって極めて重要な地域でその影響力が後退するということであります。とはいいながら、この問題で国際的な協議の場で北朝鮮に圧力を加えることにはまだ人民解放軍が強力に抵抗しています。現在の政権は人民解放軍に手を付ける意思はまだ示しておりません。手を付けてほしいんですけれども、まだ示していない。 ここでのポイントは、中国がどのように北朝鮮に対するポジションを変えるのかという一点に尽きると思います。容易なことではありませんが、これが打開できなければ、北朝鮮問題の打開は極めて難しいと覚悟した方がいいと思います。ということは、日中関係が険悪なときに日本が中国と共同して北朝鮮に対する様々な政策行動を考えることが大変難しいという現実の課題ともつながるわけです。 東アジア共同体については、今の御指摘はかなりの程度そのとおりですが、正にだからこそ我々の側からの東アジア共同体の構想が必要だということにもなります。 結局どうなったか分からないんですが、経済産業省の中で東アジア共同体について協議が行われる、その協議に私は参加したんですけれども、その目的は、これはつくってもしようがないということではなくて、中国が主導権を握った東アジア共同体がつくられつつあるからこそ、そのイニシアチブを日本が奪い返すために何ができるのかという、そちらの問題でした。つくると中国が主導権を握る、現在の構想はそうなんです。だからこそ、我々が主導権を奪い返すためにゲームのルールをどう変えることができるのかという問題です。その点については先ほど申し上げたことと重なりますから、これ以上繰り返さないことにします。 以上です。 ○参考人(伊奈久喜君) 私に対する質問は、東アジア共同体についてのことなんですけれども、先ほど最初の冒頭の発言でやや抽象的にお話ししたことは、末松委員の問題意識とほとんど同じようなことを申し上げたつもりなんですね。何かAPECとどう違うんだろうかというのは、私もそう思うわけですね。乱暴なことを言うようですけれども、なぜそんなにアジア、アジアと言うんだろうかというようなことを思うわけですね。 四十年ぐらい前に梅棹忠夫さんという人が「文明の生態史観」という本を書いて、日本は極西の国だというわけですね。それはどういう文脈かは忘れましたけれども、まあ一種の文明論の世界からそういうことを言っているわけなんですけれども。考えてみると、日本は極東の国だというのはイギリス帝国主義的な歴史観、つまりイギリスから見れば極東に見えるということにすぎないわけで、したがって東アジアと限定するということの意味が何ほどあるのかと、それはアジア太平洋と広げてもいいんだろうという議論は正当性があると思うんですね。 しかし、先ほど藤原参考人が経産省の担当者の発言を引いていらっしゃったように、中国との対抗上、対抗するためのツールとして今それをやっているんだということであれば、それはそれで理解せざるを得ないんだというふうにも思うんですね。 ひとつ聞かれてないところに、前段の話ですけれども、相手の立場になって考えるというようなことをおっしゃっていたわけですけれども、それはもちろん一般論としてはそうなんでしょうけれども、こういう場ですから、何かざっくばらんということでもないんですけれども、相手の立場になって考えるというのは結構トリッキーな話で、例えば、そうすると、相手の言うことはまあそれは分かるなということになるわけですね、分かっていいのかもしれませんけれども。例えばイランの核問題、今考えますと、イランからすれば、イスラエルはあると、イラクはもうアメリカの友好国であると、アフガニスタンもしかりだとなると、じゃどうしたらいいんだろうかというふうに追い詰められるというふうな気持ちにもなるわけですね。それにもかかわらず、それはいけないんだというその理屈を作ることはそんなに難しくはないのかもしれませんけれども、おっしゃるとおり、相手の立場に立つということと相手の立場を是認するということは違うんでしょうから、それはそれで有効な問題提起であるんだと思うんですけれども、相手の立場に立つというのは結構あれですね、使い方によっては変なふうに使われる理屈かなというふうに思います。 以上です。 ○末松信介君 ありがとうございました。
活動報告

2006-02-15
国際問題に関する調査会