166-参-国際問題に関する調査会-3号 平成19年04月25日 ○末松信介君 自民党の兵庫県選出の末松と申します。 今日は、寺島先生、高橋先生、大変有意義なお話をいただきましてありがとうございます。 寺島先生は予想していた話と違いまして、慌てて今想定の質問をちょっと変えましたんですけれども、岸先生から今日は厳しく質問せよという御指摘でありますのでさせていただきます。 さっき港の話が出てまして、私、神戸の選出なんです、出身なんですけれども、確かにトランシップの話がありましたけれども、今全国の港のコンテナの取扱量というのは千五百万トンなんですよね。上海は一港で二千二百万トンと、一年間で四百万トンぐらい増えていくと、統計を取る段階でも何百万も積んでいくと。日本は千五百万トンを更に六十二のコンテナ港で割っているという状態なんです。 じゃ、そこで何が起きているかといったら、もう絶対これコストの問題です。広島港で四十フィートコンテナを一個積んで神戸で載せ替えて北米に持っていったら、一個九万円と聞いているんですよね。それを広島港で積んで、先生の言われた釜山へ持っていって北米へ持っていったら、ちょっと時間掛かるけれども六万五千円なんです、二万五千円の差があると。これではますます差が開くと。 やはり人件費の問題と岸壁使用料の問題があります。これはもう致し方ない日本の一つの現在の宿命であると思うんですけれども、一番問題は何かといったら、港湾業者に聞いたら、平成八年ごろ、抜港、日本の港を抜いて荷物が向こうへ送られるようになったというときに、気が付いたときにシンガポールがトレードネットとかポートネットというのをやっていたと。それを早く取り入れるべきだったんですけれども、遅れてしまったということが一つの大きな理由になってしまっておるんですよね。 日本は今、スーパー中枢港湾進めていると。だけれども、それはそれでいいんですよね、大深度の十六メーターのバース造っていいんですけれども。要は、簡素化のためのIT化をしようというんですね。それは違うと、簡素化してIT化をせないかぬと。 やっぱり国際競争力を付けていく上で、日本の今のシステム見た場合、先生としてじれったいなと。このシステムというのは、日本にとっては良さそうなシステムであっても日本人を決して幸せにしていないというシステムというのは存在していると思うんですよ。国際会議も、数も恐らく世界で二十何位ぐらいまで落ちてきていると、開催数も。港以外に、空港もやっぱり政策もやってきていると。こういった国際競争力を保つ上で、先生としてじれったいなと思われる点、国土交通政策の前段として先生の思うところをちょっとお話ししていただきたいと思います。 それと、ちょっと時間はあれですけれども、先生が以前新聞に投稿されていて、夏目漱石のことなんか書かれていたこと、朝日新聞でしたかね、富士山は日本一だというようなことを言うようなああいう話というのは、もう今どき言うやつはいないという話で始まって、あれを読んで大変、僕なりに切り抜いておいていたんですけれども、アメリカに対して過剰依存、過剰の期待をしちゃいかぬと。アメリカとの関係では、もう未来は過去の延長線上には正にないということを気付かなきゃいかぬと。 先生おっしゃったように、対米貿易の比重を見ましても、これ、二〇〇四年が一八・六ですね。それが二〇〇六年には一七・五まで落ちてきておると。対中は、二〇〇四年で一六・五が、これはまた二〇〇六年には一七・〇まで上がってきているということで、肩を並べたと。だから、貿易でお互い助け合うというところはもう随分数が、数字が落ちてきておると。石油についても、アメリカはもう八割は自国の周りでこれを輸入しておるという問題もあります。 唯一先生がおっしゃるのは、大人の関係をつくれと書いておられますね、大人の関係をと。しかし、日米関係においては、ミサイル防衛構想もありますけれども、やはり日米同盟、この軍事的なお互いの、アメリカからの支援ということを考えた場合、大人の関係というのは、中も外も見ても、これはどういう関係をもって大人の関係と言える状態なのかということを先生に是非教えていただきたい。 最後に、先生には、集団的自衛権のことにつきまして先生はどのようにお考えか、この以上三点をお願いします。 高橋先生には、済みません、ちょっと三分延びまして。先生には、イスラムの先生、専門家で、ずっとテレビ拝見しているんですけれども、九月十一日以降、九・一一以降、イスラムに対して一面的な見方が広がっていると思うんですけれども、問題は原理主義など過激派をいかに拡大させないかという点でありますけれども、日本、西欧社会にとって一体何ができるんだろうかということを素朴に考えてしまうんですね。 ユーゴスラビアが、チトー大統領がいたと。あの国というのは元々、五民族四言語三宗教六共和国であった、モザイク国家ですよね。それがチトーが亡くなって共産主義というたがが外れてしまったら大混乱を来したと。しかし、今は国を分割することによって運営しておると。必ずしもイラクの民主化というのは、本当にこのスンニ派とかシーア派というのが存在して、混住していって統一ができるものかどうか。私もちょっとイラクの中の住民の状態って分からないんですけれども、分断国家というか、あえて民主化のために分割するということが、ガルブレイスさんがおっしゃっておられるように、これは可能なのかどうかということをお聞きしたいということです。それと、アメリカの政権が共和党から民主党に移った場合どう出るかということ。 以上です。 ○参考人(寺島実郎君) じゃ、三点について簡潔に。 最初の港湾の関係なんですけれども、私は、もちろん今先生おっしゃったように、いらいらしなきゃいけないようなテーマというのがもう見えてきているというのがこの陸海空すべてですね、港湾、空港それからそれをつなぐ道路としてのネットワークということで。総合交通体系という言葉、さっき言葉使ったわけですけれども、アジアのダイナミズムを迎え撃つために、例えば日本海側と太平洋側を有機的につなぐという発想がこれから物すごく重要になってくると思います。 例えば、道路はもうこの際一切要らないなんという話じゃなくて、例えば三十年代の高度成長期に東京一極集中ですべて走った国として放射線状に造った高速道路、それを縦につなぐといいますか、例えば新潟からの関越道と中央高速と東名高速が全部東京でもって接点を持っているというような構図から脱却して、北陸自動車道と名古屋をつなぐあれもそうですけれども、これからのアジアの、特にユーラシアのダイナミズムを、環日本海構想を迎え撃つためには、縦につなぐという効率性というのは非常に重要になるし、それから空港、港湾の戦略的な整備、しかもそれも、さっきちらっと話題に出していたITを使った、RFIDなんかを使った効率的な運営だとか、二十四時間通関だとか、それから日本海側にも一つぐらいスーパー中枢港湾をとかですね、様々な戦略的視点がこれから日本に問い掛けられてくるだろうと。そういうことをやらないと、アジア・ゲートウエーなんて言ってみても絵そらごとになってしまうんではないかというのが、問題意識として強く持っているというのが一点目でございます。 それから、米国に対する過剰依存、過剰期待の構造なんですけれども、日本の二十世紀というのは日英同盟、それから日米同盟というものが二十世紀百年のうち七十五年間といいますか、四分の三を、戦争を挟んだ期間だけは別にして、二十世紀七十五年間四分の三、アングロサクソン同盟でうまくいったじゃないかという考え方の下に、そのアングロサクソン同盟に対する過剰なる評価というのが多分日本の国民の中に定着しているんだろうというふうに思います。 それが歴史の教訓として、アングロサクソン同盟のかつての効用というものを的確に評価するべき部分と、じゃそれが二十一世紀にそのままつながるんだろうかという二つの視点が非常に重要だと思っていまして、二十一世紀のゲームというのは、さっき申し上げたように、限りなく多参画といいますか、つまり多極化を通り越して、僕は全員参画型と言いますね、アフリカ、アジアの国々も、それぞれに自己主張してくる国に対して向き合っていかなきゃいけないと。 今までは冷戦の時代で、日米同盟を軸にアメリカとの信頼関係をベースに世界に向けて発言しているというゲームが成り立ったけれども、丸テーブルを囲むゲームになってくると。二極間、二極ゲームとか二国間ゲームというのは、労働組合と会社の交渉みたいなもので、日米通商摩擦が激しかったといっても、僕も正にその巻き込まれてきた世界へ行きましたけれども、百回も同じ相手と交渉しているうちに落としどころ見えてくるというゲームで、ところが今我々が向き合わなきゃいけないのは、インド人もユダヤ人もアフリカの人も丸テーブルを囲んでいる中で、あいつの言っているのは筋通っているなというものを、多国間のゲームの中で生きるためには、外交における理念性だとかそれから相対性みたいなものが物すごく重要になってくると。 そういうことを考えたときに、アメリカとの関係さえ踏み固めていれば二十一世紀も安心というゲームではなくなってきている。なぜならば、アメリカと中国の関係が非常に僕は象徴していると思いますけれども、もし今、日本が日米で連携して中国の脅威と向き合おうというゲームを組み立てようとしているんだったら、それは相当世界史の潮流から見てずれているというか、アメリカは、日本ももちろん同盟国として大事だけれども、これは政権のいかんにかかわらずということを腹に置いて言っているんですけれども、中国の存在感に対して嫌でもいわゆる関心を高めている状況といいますか、一つは二十一世紀の市場の魅力という、中国の市場の魅力、それから中国の脅威という、二重構造の中で中国に対する関心は嫌でも高まっていると。 したがって、日本も大事だけれども中国も大事という相対的なゲームの中でアメリカがアジア外交というものを組み立ててくることは間違いないと。そういう中で、日米関係をやはり大人の関係と私が言っている意味は、実は日米関係、僕もアメリカに十数年もいて日米関係の中を走ってきた人間ですけれども、軍事片肺同盟、日米同盟と言うけれども、例えば経済同盟に関してどういう軸になるものを持っているのかというと、既に韓国や中国までがアメリカと動き始めているようなFTA、つまり自由貿易協定のようなものさえ一つあるわけではなく、包括的な経済協定があるわけでもなく、今後やはり軍事関係においては日米の同盟関係を大事にしながらも適切な間合いという方向に向かっていく。 つまり、それは何を意味しているかというと、私のこれは一つの主張なわけですけれども、例えば地位協定をしっかりと見直して、九〇年代にドイツがやったように、つまりドイツにおける米軍基地の地位協定を見直していった、九三年に変えていったあの流れをつくり、段階的にであれ、つまり外国の基地がこの国の中に存在しているという状況でしょう。何もかつての反米とか嫌米なんという文脈ではなくて、段階的にもやっぱり基地を縮小していく、地位協定を日本の主体性を持って回復していくというゲームを組み立てないと、アジアの目線というときに、日本が主体的なアメリカに対して一つの主張を持っている国なんだろうかという目で見たときに、正にイラク戦争のときにそれを証明して見せたように、アメリカ周辺国ではないのかという印象を与えていることが僕は日本のこの五年間の国際社会における存在感を落としたということ、ASEANの外交官の人たちといろいろ議論していても、やはり残念ながらイラク戦争に、さっき高橋さんの話とつながるわけですけれども、日本が持っていた中東との関係、アメリカと中東との関係と日本と中東との関係は違うんですよね。 いかなる国にも武器輸出もしたことがない、軍事介入したことがないという唯一の先進国として、イラクの復興支援に適切な距離を取りながら参画するということはすごく大事だけれども、イラクを破壊し、攻撃した側に立ってイラク問題に関与するという姿勢から一歩距離を取れなかったのかというのが、例えばインドを始めとするアジアの国々の人たちの日本に対する目線だと思うんですね。 したがって、私が申し上げたいのは、軍事的には、段階的にであれ、日本の主体性を回復していくという問題意識をやっぱり強く持たなければ、国際社会の中で一かどの存在として認知されないということをまず考えなきゃいけないということと、経済関係においてはより踏み込んだ日米の関係をつくっていく、次々と構想を出していく、FTAからEPAでも結構なんですけれども、日米間にこそ、世界のGDPの四割を占めるわけですから、韓国や中国よりも先に自由貿易協定的なものを提示するぐらいの構想力が要るんじゃないかと。何も薄っぺらな意味での反米とか嫌米なんという次元の話じゃなくて、アメリカとの大人の関係というのはそういう文脈で発言しているんだということを、まあだらだらなるといけないので終わらせますけれども。 それから、集団的自衛権ですけれども、私は、いかなる国も自衛権を持ってない国なんというのはなくて、個別的だろうが集団的だろうが自衛権は持っていると。ただし、その自衛権をどういう形で発動するのかはそのときの正に国会を中心にした日本の政治的意思決定が判断すべきことで、ただ気を付けなきゃいけないのは、これは安倍政権が一体となってこのキーワードを使っているとは僕は思いませんけれども、例えば外務大臣が盛んに最近言われる日本外交のビジョンとして、自由と繁栄の弧という言い方をされていますよね、ビジョンとして。この話、非常に微妙で、聞きようによると、台頭するロシア、中国に対して自由と繁栄の弧で取り巻こうというふうなロジックにも見えてくるんですね、ある立場の人からすれば。 非常に微妙で、一番分かりやすく言うと、例えば台湾問題がこじれて、中国と台湾が軍事的に向き合うような瞬間が仮に起こったとした瞬間に、そうしたら日本外交はどういう価値判断で選択肢を取るだろうかと考えたときに、もし自由と繁栄の弧というんであれば、言うまでもなく自由な民主主義の仕組みを持っている台湾、それから繁栄を実現している台湾の側に立って日本は中国に対して向き合うというスタンスを取ろうとしているのかという文脈に受け止められますよね、自由と繁栄の弧ということをもし本当にその筋書どおり読むならばですよ。 となると、気を付けなきゃいけないのは、正についこの間まで、もう世界史的には結論が出た話だと思うんですけれども、ネオコンの人たちが言っていたロジックですね。つまり、アメリカの大事にする価値、自由と民主主義と経済的市場主義を世界に実現するために我々は戦うんだというあのネオコンの人が言っていたロジックと同じことを日本は言おうとしているのかという誤解さえ与えかねないですね。そうなってくると、下手間違うと、中国とロシアの連携機構である上海協力機構、それにインドがオブザーバー参加し、イランまでがオブザーバー参加しているようなユーラシアの新しいダイナミズムに対して、日米で連携して上海協力機構と向き合おうなんというようなことを言おうとしているのかなということを国際関係の世界で生きている人間はあの言葉の中にかぎ付けると思うんですね。 そういう中で、集団的自衛権なんということが議論されていくことが果たして選択肢を狭めないかということが私が申し上げたい論点だということだけで、お話をしておきたいと思います。 ○参考人(高橋和夫君) 御質問ありがとうございます。 まず、聞かれなかったことから申し上げたいんですけれども、私、実家が北九州でして、釜山と向かい合っているんですけれども、釜山に行きますともう本当に町じゅうが渋谷のように繁栄していましてどうしてかなと思わざるを得ないわけです。実は、どうしてかなと思った日本の港湾関係者がかなり多いようで、実名は出しませんけれども、ある市の港湾関係者がシンガポールの港湾関係者にコンサルを依頼して、お金を払って、どういうアドバイスがありますかといったら、シンガポール側はこうやってこうやってこうやってこうやれば日本の港も生き返りますよという案を出したら、日本側は、あっ、それは政治的にできないからもう結構ですという答えが返ってきたとシンガポールのある外務省の方がおっしゃっていましたけれども、かなりこれは政治的決断という部分があるのかなというような気がいたします。 承った質問の第一問目で、イスラムの過激派対策どうしたらいいのかということなんですけれども、まあもはや過激派になってしまった人たちは多分何をやっても心を入れ替えたりはしないと思うんで、問題はこれから過激派がどうやったら増えないかと、どうやったら過激派の宣伝が功を奏さないかということなんですけれども、いろいろあると思うんですが、一つはやはりパレスチナ問題だと思います。実際、アラビア語のアル・ジャジーラテレビを見ていますと、毎日毎日パレスチナの方がいじめられている、抑圧されているという映像が流れていて、イスラエルはひどいことをしているというのがアラブ、イスラム世界の共通認識で、何でこんなことがまかり通るんだというと、それはアメリカが支持しているからだと。ああ、じゃ、ビンラーディンの言うとおりだ、アメリカというのはひどい国だなということがすんなり中東の人たちの心の中に入っていくという構図があるわけで、もちろんこの問題の解決策が一朝一夜にして出てくるわけではないんですけれども、例えばクリントン大統領のときはかなりのところまでアメリカの努力の姿が見えて、そんなに状況は悪化しなかったということがあるんで、やはりこの問題をどうするかということが、これが片付けばすべて片付くという問題ではないんですけれども、かなり大きな問題かなというように思っております。 それから、イラクの情勢なんですけれども、確かにイラクという国、スンニ派、シーア派、クルド人、交ざって住んでいるところがありますから、イラクという国を割ってしまうとなればそこをだれが取るかということで大変な問題が起こってくるわけですけれども、同時に、このままではどうにもならないというのが現状でして、恐らく、まあ私の読みというのは当たったことがないんですけれど、私の読みは、民主党の大統領が出てくれば、オバマさんにしろクリントンさんにしろエドワーズさんにしろ、みんなイラクからある意味で、全面撤退とか即時撤退とかは言いませんけど、一部撤退とか段階的撤退とかいうことをおっしゃっていますから、アメリカはイラクが分裂していくという現実を受け入れざるを得ないんじゃないかなという気がします。 例えば今、台湾と中国、中華人民共和国政府と中華民国政府を見れば、もう明らかに台湾は実質上独立しているわけですけれど、みんなはそれは、台湾は独立していないというふりをして何とか世の中回っているわけで、イラクでも同じことで、クルド人、シーア派、スンニ派が三つの国に分かれて、でも一つの国のようなふりをして、だましだましやっていくということは私は可能性として十分可能なんじゃないかなというか、それ以外にオプションがなくて、結局そこに落ちていかざるを得ないんじゃないかなという、そんな印象を抱いております。 ○末松信介君 ありがとうございました。
活動報告

2007-04-25
第166回国会 参議院 国際問題に関する調査会